なぜ摘心をするのか
通常は枝分かれしないタイプのハーブ、例えばミントやシソなどは、茎の先端にある「頂芽(ちょうが)」から次々と葉っぱを出し、背丈を伸ばしていきます。
この頂芽には、「頂芽優勢」という性質があり、頂芽が盛んに伸びているときは「側芽(そくが)」が伸びることはありません。
そのため、この頂芽を摘み取ってしまえば、植物の背丈を制限し側芽の発達を促せるので、花や植物の収穫量を増やすことができます。
これを摘心(てきしん)、あるいは「ピンチ(Pinch)」や「芯止め」と言い、せっかく育っている植物の先端を切ってしまうのはかわいそうな感じもするのですが、ハーブを育てるうえで大切な作業の一つでもあります。
摘心と植物ホルモン
それでは、なぜ摘心を行うと植物の背丈が抑制され、側芽が成長していくのでしょうか。
これには、「植物ホルモン」という低濃度で自身の生理活性・情報伝達を調節する機能を持つ物質が、重要な働きを担っています。
植物ホルモンに関しては、1880年に進化論で有名なチャールズ・ダーウィン(1809~1882年)と、その息子フランシス・ダーウィン(1848~1925年)が出版した『植物の運動』という本で、植物が光を感じて茎や根の成長方向を変えるのに重要な物質(植物ホルモン)が存在することを予言したことに始まります。
その後、頂芽優勢を促す「オーキシン(auxin)」(ギリシャ語の「成長する」という意味)という植物ホルモンが、1946年に発見されました。
オーキシンは頂芽で作られ、それが茎を通って下の方に移動し、側芽の成長を抑えていると考えられています。
そのため、頂芽を切り取ってその切り口にオーキシンを与えると、あたかも頂芽があるかのように側芽の成長が抑えられるのです。
さらに1964年、側芽の成長を促進するサイトカイニン(cytokinin)という植物ホルモンが発見され、オーキシンがそのサイトカイニンの合成を抑制していることも分かりました。
つまり、頂芽から移動してくるオーキシンは、サイトカイニンが作られるのを抑えているので成長できないのですが、頂芽が切り取られるとオーキシンの抑制が取り除かれ、サイトカイニンが茎で作られて側芽が成長を始めるのです。
植物の中でも、ツツジやベゴニア、菊などは頂芽優勢の性質が強く発言していないため、枝分かれが多くサイトカイニンの合成が旺盛な植物と考えられています。
頂芽優勢に関する研究は、ここまでで100年ほど続いており、21世紀に入ってようやくその明確な仕組みが判明できたのですが、生合成や分子レベルでの仕組みはまだ分かっていないことも多いです。
オーキシンとサイトカイニン
オーキシンは、頂芽優勢のほかにも、茎を光の方向へ曲がる(屈性)と根を形成する作用を持っています。この性質を利用して、植物を成長させたり収穫量を増やす合成オーキシンが開発されました。
しかし、オーキシンはある濃度以上になると成長抑制作用を示し、特に根の成長を阻害するため、除草剤にも使われています。
トマトトーンと呼ばれる野菜や果実の量を増やす合成オーキシンも、原液を100倍に薄めて散布するなどその濃度には注意が必要です。
このように、オーキシンは植物の成長のために欠かせない植物ホルモンであるうえ、使い方次第で成長剤にも除草剤にもなる性質を持っているのです。
また、細胞分裂の促進や細胞の老化防止、茎や葉の分化促進などの働きを担うサイトカイニンの方も、イチゴやランなどの優良株のクローンやウイルスフリーの植物を作るために組織培養する際、成長制御物質として利用されています。
サイトカイニンは、光合成や呼吸作用・蒸散作用も活発にするので、この性質を利用して植物の生育を活発にする肥料も出てきました。
頂芽優勢の練習問題
高等学校 生物Ⅰ
問.頂芽優勢の仕組みとして、適当な説明を次の選択肢から選べ。
(1)頂芽で合成されるオーキシンが、側芽の部分まで移動し、直接作用してその成長を抑制している。
(2)頂芽で合成されるオーキシンが、側芽の成長を抑制するサイトカイニンの合成を促進している。
(3)頂芽で合成されるオーキシンが、側芽の成長を促進するサイトカイニンの合成を抑制している。
解説
(1)は旧説で誤り。
頂芽優勢には、オーキシンとサイトカイニンが相互に作用している。
オーキシンの働き
・頂芽で合成される。
・側芽に移動する。
・サイトカイニンの生成を抑制する。
サイトカイニンの働き
・主に根で合成される。
・側芽の成長を促進する。
・オーキシンがある場合には、生成が抑制される。
答.(3)