【マンドレイク】引き抜いた悲鳴を聞くと死ぬ(マンドラゴラ)

マンドレイク(マンドラゴラ)について

マンドレイク(マンドラゴラ)実在するのに伝説や伝承に登場しているハーブに、マンドレイク(マンドラゴラ)があります。

マンドレイクはナス目ナス科マンドラゴラ属で、欧州から中国にかけて自生しており、魔術や錬金術の材料としても登場します。

聖書(創世記 第三十章一四~一七節)には、ヘブライ人の族長ヤコブの妻であるラケルという子供の産めない女性にマンドレイクを与えたところ、子供が産めるようになった、という逸話が残っていますが、根は数種のアルカロイドを含んでいる(幻覚作用や神経毒)ため、現在薬用にされることはほとんどありません。 薬用としてはMandragora officinarum L.、M. autumnalis Spreng.、M. caulescens Clarkeの3種が知られています。

カルタゴの猛将ハンニバル(BC247年~BC183年/BC182)の部下マハルバルが、アフリカのローマ植民地を攻略した際、苦戦するとみてマンドレイク入りのワインを残していったん兵を引き、街に入ってきた敵軍が戦勝祝いにこのワインを飲み、毒の効能によって麻痺した敵軍を皆殺しにして勝利を収めた、との伝承があります。

他にも、ツタンカーメンの墓にマンドレイクを栽培する様子が描かれていて、墓の遺物からマンドレイクを手に持つ妃の絵があったり、ソロモン王の『ソロモンの雅歌 第七章 13節』にはマンドレイクが「恋茄子」として登場しました。

伝説上のマンドレイク

マンドレイク(マンドラゴラ)

ところで、マンドレイクの根はその複雑な根の形が人の形に見えることがあります。

その影響からか、引き抜くと世にも恐ろしい悲鳴を上げ、その悲鳴を聞いた人間は死んでしまう、という言い伝えが広まりました。

その叫び声に関して、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』(第四幕三場)の中では『そして大地から引き抜かれるマンドレイクのごとき金切り声、生ける者がそれを聞けば気が狂い…』と形容されています。

古くは、数学者のピタゴラス(BC582年~BC496年)はマンドレイクを人間と同形同性を有するものだと称し、ローマの農学者ルキウス・コルメラ(1~2世紀ごろ)は半人間と呼び、ドイツのキリスト教神学者アルベトゥス・マグヌス(1193年頃~1280)は性別のあることまで人間そのものに似ていると記述しました。

マンドレイクには春咲きの種(M. officinarum)と秋咲きの種(M. autumnalis)があるのですが、伝説上のマンドレイクでは春咲きが雄、秋咲きが雌とみなされていました。

プリニウス(22/23年~79年)は、白いマンドレイクが雄で黒いのは雌だと述べており、引き抜く者はまず剣で地面に3つの円を描きそれから西を向くべし、とも言っています。

マンドレイクの引き抜き方

犬を使ってマンドレイク(マンドラゴラ)を引き抜くところイタリアの政治家で著述家のフラウィウス・ヨセフス(Flavius Josephus, 37~100頃)は『ユダヤ戦記』最終巻でマンドレイクの引き抜き方を提案しました。その方法とは、自分が叫び声を聞いてしまわないよう、犬を使う方法になります。

まず、自分になついている犬をヒモでマンドレイクにつなぎ、自分は遠くへ行ってそこから犬を呼び寄せます。すると、犬が自分のもとへ駆け寄ろうとする勢いでマンドレイクが引き抜かれる、というものです。

ただし、マンドレイクを手に入れることができる一方で、犬は身代わりに悲鳴を聞いて死んでしまうため、このやり方には賛否両論あります。

実際には、細い根が複雑に絡み合っているマンドレイクの根を抜くには力が必要で、根をちぎりながら抜くとかなりの音がし、この音が伝説上のマンドラゴラの叫び声の逸話の由来になったと思われます。

マンドレイクの亜種「アラルウネ」

マンドレイク(マンドラゴラ)の根また、マンドレイクの亜種に「アラルウネ」があります。

ドイツ語でマンドレイクは「Alraune」で、古くは「ささやき」や「ざわめき」を意味したルーン語「Alruna」から来ています。

グリム童話の著者として知られるヤーコプ・グリムは、『ドイツ神話学』第37章「薬草と鉱石」において、アルラウネの語源はドイツ古代の女神アルラウン(Alraun)ではないか、と主張しています。

マンドレイクの根が人間の姿をしていることから、絞首台の下に生えるという迷信が生じたのですが、20世紀前半ドイツの人気作家ハンス・ハインツ・エーヴェルスは、絞首刑になった男と売春婦の人工授精により美しい魔女が産まれるという着想で小説『アルラウネ(1913年)を書き、人気を博しました。この小説については、『世界幻想文学大系〈第27巻 A アルラウネ上・第27巻 B アルラウネ下〉』(国書刊行会)で、訳書が出ています。

これをきっかけに、マンドレイクやアルラウネはファンタジー系の小説やゲームにも現れるようになり、小説『ハリー・ポッター』シリーズや『ドラゴンクエスト』、『モンスターハンター』などのゲーム、『パズドラ』や『モンスト』といったスマホアプリ、最近ではLINEスタンプに登場するまで人気が出てきています。

関連記事

  1. ハーブの利用法別一覧
  2. 用途別 ハーブ効能一覧
  3. ハーブと植物解剖学
  4. アロマテラピーと植物分類学
  5. 花言葉の起源とハーブ
  6. 植物ホルモンが植物を動かす
  7. ラベンダーの5分類について
  8. 摘心(てきしん)の不思議と植物ホルモン
5 4 votes
記事の評価レート
更新通知を受け取る »
guest
0 コメント
Oldest
Newest 最多投票数
Inline Feedbacks
全てのコメントを見る

ハーブの不思議な話

おすすめ記事

【ハーブ7選】初心者でも育てられるハーブをランキングで紹介

育てやすいハーブとは「ハーブを育てる」と聞くと、なんだか丁寧に育てないといけないような印象を抱き…

カモミール Chamomile ~甘いリンゴの香り、抗アレルギー~

【学 名】Matricaria necutita、Chamaemel…

ハーブと野菜を一緒に植えるコンパニオンプランツ

コンパニオンプランツとは ハーブを単独で楽しむのはもちろんなのですが、ハーブ類と野菜類をうまく組…

ハーブとは何か

ハーブとは何か地球上の、山や森、野の草、緑の芝生、花壇の草花、熱帯雨林にある植物……。 いっ…

アロマテラピーのメカニズム

精油が心身に作用する経路アロマテラピーで精油(エッセンシャルオイル)を利用すれば、私たちはリ…

人気記事

  1. (公社) 日本アロマ環境協会アロマテラピー検定
  2. 用途別 ハーブ効能一覧
  3. 【ハーブ図鑑】ハーブの名前や種類、育て方、効果・効能

記事ランキング

カテゴリー

おすすめ記事

PAGE TOP
0
質問やコメントをどうぞ!x