ハーブとは何か
地球上の、山や森、野の草、緑の芝生、花壇の草花、熱帯雨林にある植物……。
いったい、植物の中でどんな種類のものをハーブといい、どのくらい種類があるのでしょうか。
ハーブ(Herb)の語源は、ラテン語で草を意味するHerba(ヘルバ)に由来しています。
思いきり広い意味に解釈すれば、あらゆる植物はハーブといえるかもしれません。なぜなら、ハーブとは「私たち人間の暮らしに役立つ植物」のことだからです。
ですから、よくよく考えてみると、役に立たない植物、つまりハーブではない植物はありえないように思えます。いったい、ハーブは野菜やスパイスと何が違うのか、このあたりも見ていきましょう。
ハーブと香草
ハーブは「香草」とよばれる場合もあり、すべてのハーブには香りがあるような印象を受けます。
ヨーロッパ中世の時代に、香りを持つハーブが魔よけになると信じられ珍重された伝統から、現代でも主だったハーブに個性的な香りを特徴とするものがたくさんあります。
香料植物としてはもちろん、特に料理に用いるものや美容化粧品に加えるハーブのほとんどに、好ましい芳香を放つ種類が集中しているので誤解されやすいのですが、「香草」はハーブとイコールではありません。
ハーブの香りの正体は植物にごくわずかに含まれる精油(エッセンシャル・オイル)で、複雑多様な成分で構成されるこの精油を正しいやり方で用いれば、私たちの心や体にさまざまなプラスの効果を発揮するのは事実です。
ハーブなどの精油を使ったこうしたテクニックをアロマテラピー(芳香療法)といい、伝統的でありながら、最新の自然療法として注目を集めています。
香りはハーブのすべてではありませんが、主要な特徴をあらわしているのは確かです。
ハーブの定義について考える
ローズマリーやセージ、タイム、カモミール、ラベンダー…。これらは主にヨーロッパの人々が伝えてきたハーブたちです。
歴史をひも解いてみると、世界のどんな民族も周囲の植物を利用してきたことが分かります。
日本にはシソ、ショウガ、サンショウ、ワサビなどがあるように、それぞれの地域の民族に固有のハーブがあるわけです。
南米アマゾンの熱帯雨林には、現在インディオの呪術師しか知らない薬用植物が何百種類もあると推測されていて、薬学者の注目を集めている最中です。
さらに、中国漢方で用いる多数の薬草や、今日本で人気のウーロン茶、杜仲茶などの原料もハーブといってさしつかえありません。ハーブは何種類くらいあるのかという議論のナンセンスなことが、お分かりになると思います。
また、家の周りに勝手に生えてくる草を雑草と呼び、目の敵にしがちですが、タンポポやスギナ、オオバコ、シバムギもみなそれぞれタンデライオン、ホーステイル、プランテイン、カウチグラスという名の立派なハーブです。
ハーブと野菜
ともすれば有名なハーブばかりがもてはやされますが、実は、ハーブはみな「自生」しているものなのです。
米や野菜のように人間が手をかけて品種改良したり、計画的な収穫を期待して栽培するのではなく、野生のままのみずみずしい力にあふれた植物たちです。
昔はハーブだったキャベツやセロリ、たまねぎは、今では農業的に栽培されるようになって「野菜」になりました。
そうすると、ハーブとは「人間の暮らしに役立つ自生植物」ということになります。ですから、香りのないハーブも存在するわけで、「香草」=ハーブとは断定できません。
米や野菜は品種改良を重ねていて、人間が手をかけないとすぐに害虫などにやられてしまって、なかなか繁殖できません。
そういうわけで、人間が大規模栽培で育てる植物は「野菜」と区別できるのです。
農業とレヴァント回廊
世界で最初の農耕が初めて定着・普及したのは、今から1万2000年~1万年ほど前の肥沃な三日月地帯の西半分であるレヴァント回廊(シリア・パレスティナあたり)と言われています。ちょうどこのころ、地球規模で寒冷期に突入したため、狩猟・最終では生きていけなくなった者たちが息の頃を賭けて農業にしがみつきました。とはいえ、農業が伝播する前に滅んでしまった文明は多数あります。そんな中、アジア、欧州、アフリカの3大陸に広がっていくのに有利なレヴァント回廊だからこそ、農業を伝播する起点になることができたと考えられています。
ハーブとスパイス
では、ハーブとスパイスはどう違うのでしょうか。
「人間の暮らしに役立つ自生植物」という条件に当てはめると、ナツメグやペッパー、クローブ、シナモンなどのスパイス類も、インドやマダガスカル、東南アジアなどの原産地ではもっとも役立つ自生植物ですから、ハーブということになってしまいます。
ところで、スパイスとは何なのでしょう。
スパイスとは、ヨーロッパ文化圏での伝統的、習慣的な分類です。ヨーロッパの大航海時代と呼ばれる時期に、大海原を越えてスペインやポルトガルの船が持ち帰った南国の刺激的な香りの木の実、樹皮などをスパイスと呼び、自国に自生するハーブと区別したのです。
つまりスパイスは、より大きなハーブの中の1つのジャンルというわけです。
農業とレヴァント回廊について、追記しました。