植物分類学
アロマテラピーでは、植物識別が非常に重要です。
なぜなら、同じスパイカグループのラベンダーであっても、Lavandula angustifolia(イングリッシュラベンダー)とLavandula latifolia(スパイクラベンダー)の精油は成分が異なっているからです。
そのため、ハーブが属する分類を知っていれば、精油の作用とその性質を理解するのに役立ちます。
生物の体系的な分類を行ったのは、アリストテレス(B.C.384~322)が最初で、その弟子テオフラストス(約B.C.372~B.C.287)が植物に名前を付け区分したものの、種は神が想像したものであるという旧約聖書の考え方(神が階層トップで種は不変)でした。
近代的な分類学は18世紀になってようやく登場、スウェーデンの植物学者で「分類学の父」とも称されるカール・フォン・リンネ(Carl von Linne 1707年~1778年)が雄しべの数による分類を確立しました。
その後、ダーウィンの進化論などの影響が加わり、現在では「茎に付く葉の構造や数」、「配列、花の形と付き方や雄しべや花弁などの数」、「果実の構造」といった特徴に基づいて分類されています。
分類の基本
生物の分類の基本単位は「種(species)」で、ラテン語のspeciesより単数の場合は省略形「sp.」、複数の場合は省略形「spp.」で書き表します。
同じ種に属する各植物は共通の先祖を持ち、構造や性質も類似しています。
次に、似たような特徴を持つ種のまとまりを「属(genus)」、さらに共通の特徴を備える属は「科(family)」に統括され、いくつかの科をさらにまとめた階級は「目(order)」に、目は「綱(class)」に、綱は門(phylum)に、門は界(kingdom)にまとめられ、最近ではさらに上位の階級としてドメイン(domain)も使われます。
人であれば、「ヒト(種)→ヒト属→ヒト科→霊長目→哺乳網→脊椎動物門→動物界→真核生物(ドメイン)→生物(生き物の総称)」のようになりますが、アロマテラピーで重要な分類レベルは「科・属・種」です。
例えば、シソ科の精油は葉で、バラ科は花で、ミカン科は花・実・葉で作られるなど、同じ科の植物では精油を産生する部位に同じ傾向が見られます。
分類の単位はさらに、地理的な隔離よって違いが生じている亜種(subspecies:subsp.またはsubspp.)、種の中で小さい違いがあるものは変種(variety:var.)または品種(forma:f.)、異なる条件下で生育した同一植物の違いのケモタイプ(chemotype:ct.)とさらに細かく分ける場合もあります。
学名の仕組み
次に学名ですが、前出のカール・フォン・リンネによって考案された、生物の学名を属名と種小名の2語のラテン語で表す二名法(または二命名法)が現在も使われています。
学名の属名は属を識別(氏名の名字のようなもの)、種小名は種を識別(氏名の名前のようなもの)しており、生物の学名を属名+種小名の2語に制限することで、学名が体系化されるとともに、その記述が簡潔になりました。(3番目がある場合は、その学名の命名者を表す)
現在の生物の学名はリンネの考え方に従う形で、1906年の国際植物会議で合意された国際植物命名規約(International Code of Botanical Nomenclature:ICBN)に基づいて決定されています。
例えばローズマリーの場合、学名「Rosmarinus officinalis」のRosmarinusが属名で、officinalisが種小名、学名はイタリック体で書くのが決まりで、属名は必ず大文字で始まります。
種小名は、その植物の原産地や特徴、発見した人を表していることがあり、ローズマリーの種小名officinalisであれば「薬用または料理用」の意味を持ちます。
同様に、セージ(Salvia officinalis)、レモンバーム(Melissa officinalis)、ジャスミン(Jasminum officinal)なども、薬用を示すofficinalisが種小名になっています。
なお、近年では、遺伝子工学の発達により、1998年に国際プロジェクトであるAPG(Angiosperm Phylogeny Group)がAGP植物分類体系を構築しました。
これは、葉緑素DNAを中心とした分子系統学的解析による分類で、ゲノム解析により各植物間がどれほど近縁なのかを示す分け方になっています。
これまでの被子植物系統の常識が覆される結果が出た一方で、新発見や新たな化石の出現などにより随時変更されていて、今後の研究によって見解が変わることもあるためまだ未完成の分類法ではあります。
主なハーブの種小名とその意味
amara | 苦味薬 Citrus aurantium var.amara(ネロリ) |
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angustifolia | 細い葉 Lavandula angustifolia(イングリッシュラベンダー) |
basilicum | 王者らしい Ocimum basilicum(バジル) |
bergamia | 梨の王またはイタリア小都市ベルガモが由来 Citrus bergamia(ベルガモット) |
byzantina | ビザンチンの(現イスタンブール)Stachys byzantina(ラムズイヤー) |
citratus | ミカン属のような Cymbopogon citratus(レモングラス:西インド型) |
communis | 一般的な Juniperus communis(ジュニパーベリー) |
damascena | ダマスカスの Rosa damascena(ダマスカスローズ) |
europaea | ヨーロッパの Tilia europaea(リンデン) |
flexuosus | 波状、ジグザグの Cymbopogon flexuosus(レモングラス:東インド型) |
graveolens | 強い香り Pelargonium graveolens(ゼラニウム) |
latifolia | 広葉の Lavandula latifolia(スパイクラベンダー) |
lupulus | 小さな狼 Humulus lupulus(ホップ) |
millefolium | 細かく切れた葉 Achillea millefolium(ヤロウ) |
nigra | 黒い Sambucus nigra(エルダーフラワー) |
nobile | 高貴な Chamaemelum nobile(ローマンカモミール) |
odorata | 芳香 Cananga odorata(イランイラン) |
officinalis | 薬用または料理用 Rosmarinus officinalis(ローズマリー)、セージ(Salvia officinalis)、レモンバーム(Melissa officinalis)、ジャスミン(Jasminum officinal)、ボリジ(Borago officinallis)、マシュマロウ(Althaea officinalis) |
piperita | 胡椒のような Mentha piperita(ペパーミント) |
purpurea | 紫色 Echinacea purpurea(エキナセア) |
recutia | 下に打ち付ける Matricaria recutia(ジャーマンカモミール) |
rosaeodora | バラの香りの Aniba rosaeodora(ローズウッド) |
rubra | 赤い Rosa rubra(ローズレッド) |
sinensis | 中国 Citrus sinensis(オレンジ) |
vulgare | 通常の Foeniculum vulgare(フェンネル) |
vulgaris | 普通の Thymus vulgaris(タイム) |